それでは計画敷地に対して建物を配置します。その際、敷地境界線に対してどのくらい離して建物を配置すればいいのでしょう。その離隔寸法を決める要因がいくつかあるのでご説明します。
民法234条
建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
民法上の規定です。これは建築基準法65条の規定において近隣商業地域、商業地域において防火、準防火地域で、耐火建築物であれば、上記民法の規定は排除され境界に接して建物を設けることが出来る。という最高裁の判例がありますので用途地域によっては敷地いっぱいでもたててよいかもしれませんがやはり施工性を考えても50㎝以上は離して計画したいものです。
山留寸法
建物の基礎は地盤面より下部に施工するので山留を施工する必要があります。山留の種類によってその寸法は異なりますが境界線より60センチメートル以上躯体で離しておくとだいたいの工法での施工が可能です。
民法235条
境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。)を設けるものは、目隠しを付けなければならない。
これは窓を設けない場合は該当しません。また窓を設ける場合でも曇りガラスでかつ開閉できない窓の設置である場合も必ず考慮すべき事項ではなくなると考えられていますが、やはり設計を行う時には周辺環境にも配慮した設計をすべきでしょう。
建築基準法54条 第一種低層住居専用地域等内における外壁の後退距離
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域又は田園住居地域内においては、建築物の外壁又はこれに代わる柱の面から敷地境界線までの距離は、1.5メートル又は1メートルとする。
どちらの数値を採用するかは特定行政庁が決めるので計画地の都市計画課等で確認しましょう。
外壁後退の対象ににバルコニーが入るかどうかは見解が分かれる部分ですので計画地の特定行政庁に確認が必要です。またこの法文には下記の緩和があります。
令135条の22
一 外壁又はこれに代わる柱の中心線の長さの合計が3メートル以下であること。
二 物置その他これに類する用途に供し、軒の高さが2.3メートル以下で、かつ、床面積の合
計が5平方メートル以内であること。
上記のいずれかの条件を満たす部分は、外壁後退の対象から除外されます。
地区計画で定める壁面後退距離
その他に各種自治体の条例で計画建物の壁面後退距離等の規制がある場合はそれを遵守しましょう。
東京都建築安全条例19条 共同住宅等の居室(東京都の場合)その①
共同住宅の住戸若しくは住室の居住の用に供する居室のうち一以上(中略)は、次に定めるところによらなければならない。
一 床面積(下宿については、附室の部分を除く。)を7平方メートル以上とすること。
二 次のイ又はロの窓を設けること。
イ 道路に直接面する窓
ロ 窓先空地(省略)に直接面する窓
すべての住戸の居室のうち1つ(7平方メートル以上)が道路に面する窓もしくは窓先空地に
面する窓を設ける必要があります。つまりその住戸の居室の窓が道路に面していない場合は
隣地境界線側に窓先空地という空き地を設ける必要があるということになります。
窓先空地の奥行寸法はその窓先空地に面する住戸の床面積の合計に応じて決まっています。
窓先空地の面する住戸等の床面積の合計 | 幅員 |
100平方メートル以下のもの (耐火建築物は200平方メートル以下) | 1.5m |
100平方メートルを超え、300平方メートル以下のもの (耐火建築物は600平方メートル以下) | 2.0m |
300平方メートルを超え、500平方メートル以下のもの (耐火建築物は1000平方メートル以下) | 3.0m |
500平方メートルを超えるもの (耐火建築物は1000平方メートル超え) | 4.0m |
この表において、住戸等の床面積の合計の欄の数値は、耐火建築物あっては、この表に定める数値の2倍とする。()に2倍にした数値を記載しています。
あくまで有効幅員ですので隣地境界線に沿ってフェンスやブロックが立ち上がっている場合は
その分を逃げたうえで必要幅を確保しましょう。
東京都建築安全条例19条 共同住宅等の居室(東京都の場合)その②
窓先空地から道路(中略)までを幅員2メートル(住戸等の床面積の合計が200平方メートル以下の場合にあつては、1.5メートル)以上の屋外通路(屋外に十分開放され、かつ、避難上有効に区画された通路を含む。)で避難上有効に連絡させなければならない。
これは窓先空地から道路等までを有効幅員2.0mの通路を設けてくださいということです。屋外通路と記載があるので基本的には屋根がない部分ですが一部開放性のあるピロティを通るのは問題ありません。ただしピロティ部の床、壁は耐火構造とし都安19条の場合は屋内部分と特定防火設備で区画する必要があります。これも有効幅員ですので隣地境界線に沿ってフェンスやブロックが立ち上がっている場合はその分を逃げたうえで必要幅を確保しましょう。
建築基準法施行令128条 敷地内通路
敷地内には、第123条第2項の屋外に設ける避難階段及び第125条第一項の出口から道又は公園、広場その他の空地に通ずる幅員が1.5m(階数が3以下で延べ面積が200㎡未満の建築物の敷地内にあつては、90㎝)以上の通路を設けなければならない。
これは屋外避難階段から道路等までを有効幅員1.5mの通路を設けてくださいということです。
あくまで有効幅員ですので隣地境界線に沿ってフェンスやブロックが立ち上がっている場合は
その分を逃げたうえで必要幅を確保しましょう。これも基本屋根がない部分ですが一部開放性のあるピロティを通るのは問題ありません。ただしピロティ部の床、壁は耐火構造としピロティ部分の下地、仕上げ不燃としかつ屋内部分と常時閉鎖式防火設備で区画する必要があります。
東京都建築安全条例17条 主要な出入口(東京都の場合)
共同住宅等の主要な出入口は、道路に面して設けなければならない。
面していない場合は主要な出入口から道路まで下記の表の有効幅員を確保する必要があります。
ここで注意する必要があるのは主要な出入口がエントランスの入口だけでなく上記の敷地内通路(敷地内通路のスタート地点である屋外避難階段の避難階の出入口)も該当することがあるということです。エントランスの出入口は面している場合が多いですが屋外避難階段の出入口は面していない場合が多いのでこの規定を守る必要がある場合があります。これは計画が進んでからでは修正ができないような大きな項目ですので共同住宅を計画するときは、どこが主要な出入口でどこが敷地内通路かを決めてその考えで問題ないかを建築主事や確認審査機関に確認してから計画を進めたほうがよいでしょう。
※https://www.nonscale-100.site/toan/参照
住戸等の床面積の合計 | 幅員 |
100方メートル以下のもの (耐火建築物は200平方メートル以下) | 1.5メートル |
100方メートルを超え、300平方メートル以下のもの (耐火建築物は600平方メートル以下) | 2.0メートル |
300平方メートルを超えるもの (耐火建築物は600平方メートル超え) | 3.0メートル |
この表において、住戸等の床面積の合計の欄の数値は、耐火建築物あっては、この表に定める数値の2倍とする。()に2倍にした数値を記載しています。
あくまで有効幅員ですので隣地境界線に沿ってフェンスやブロックが立ち上がっている場合は
その分を逃げたうえで必要幅を確保しましょう。
2棟構成のエキスパンジョイントがある場合
例えば建物配置が東向きにメイン開口を持つ棟と南向きにメイン開口を持つ棟と2棟構成の場合2棟は構造上エキスパンジョイントでつなぎます。その時に2棟の間隔をいくつ開けておく必要があるか知っておかないと建物配置ができません。詳細な揺れ寸法は構造設計者に検討してもらって決定しますが初期計画の段階では地震時の建物の揺れは建物高さの1/100揺れると仮定して配置しましょう。2棟それぞれが建物高さの1/100揺れるので、お互いがぶつかり合う方向に揺れても干渉しないようにするには
(建物高さ/100)×2(両側からくるので)の有効距離+エキスパン金物設置寸法100㎜
を2棟の建物の離隔寸法として計画を進めましょう。
建築基準法第28条 居室の採光及び換気
居室には採光を確保する必要があります。これはその居室の採光を確保する窓の高さ方向の位置とその窓の前にある共用廊下もしくはバルコニーの先端から隣地境界線までの距離で計算されます。その距離は用途地域が商業系地域では4m 工業系地域では5m 住居系地域では7m 距離が確保されていると採光補正経数の算定値が1.0未満となった場合でも1.0として計算できる緩和が受けられます。採光補正係数が最低でも1.0ないとその居室の採光を確保するのは難しくなります。まず最初のあたりとしてその数値を確保して建物配置を行ってみましょう。
上記の項目を確保したうえで建物を配置してみて、この時点でその範囲内で容積率を消化するには建物を何層上に乗せる必要があるか計算します。そしてその高さで日影規制や各斜線規制にかからないかをチェックする流れになります。
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